An interview with Lord Finesse (2005)

interview & transcribe: Omizu, Jiro date: 27th, Nov. 2005

-夏1にも来日されてましたが、日本に来るのは何回目になるんでしょう?

そうだな、多分7、8回は来てるんじゃないかな。自分にとっても日本は大事なところになったよ。

-それだけ日本人にとってもあなたの曲やDJが魅力があるんですよね。

それはおれからしてもそうさ。単純に日本人が好きだっていうことだけじゃなくて、みんながHip Hopカルチャーの大事なところもしっかりと理解しているしね。どんな風にHip Hopが進化してきたかもわかった上で、誰がチャートで1番か、とか200万枚、300万枚のセールスをあげるかっていう「量」じゃなく「質」を見ているよね。

-いま試しにプレイされてみて、NUTS2のサウンドはどうでしたか?

いいね、今夜はとてもドープな夜になると思うよ。クラシックな曲はやっぱり音がしっかりしているものだからシステムは大事なんだけど、そういう音がしっかり出てるよね。

-それを聞いたらここのエンジニアも喜びます。こちらではクラブのPAなど、あまり恵まれた環境にいなかったり、人材も不足しがちなんですが、NYはそういう人たちも多いんでしょうか?

そうだね。ミキシングにしろライブにしろ、いいエンジニアがいっぱいいるよ。おれが一番好きなのはKen Durro(ケン・デューロ)3だ。あとはKevin Krauss(ケビン・クラウス)もいいね。NYには学校もいくつかあるけど、それには限界があるし、やっぱり誰かの下について学ぶのが一番だね。

-そういう音のよさという意味では、録音する以前の声の良さ、というのも大事だと思います。好きな声のラッパーと言えば誰ですか?

うーん。オーセンティックな声だからRakim(ラキム)は好きだ。・・・でも、うぬぼれとは思って欲しくないんだけどおれはやっぱり自分の声が好きだな。顔がわからなくても声を聴いただけで、例えばレストランでいきなり「Lord Finesseみたいな声ね」とか言われたりするんだ(笑)。それだけ特徴があるんだと思うよ。

-サウンドチェックではオールドスクールのブレイクス2枚使いを中心に回してましたよね? いまでもそういうプレイを中心にするんですか?

そういうわけじゃないよ、もちろんブレイクスもかけるけどね。ターンテーブルの感覚をつかんだりするのに一番なじんでるからああいう感じでやってたんだ。普段は、そうだな、James Brown(ジェイムス・ブラウン)が大好きだし、Rare Grooveもかける。Hip HopアーティストでもそういうRare Grooveをサンプルしてるようなやつが好きだ。でもその時々でいろんな曲を違うセットでかけるよ。今日は初期のHip Hopとかからはじめて90年代中ごろ、少しR&Bとかもかけるつもりだし、それにMichael Jackson(マイケル・ジャクソン)は必ずかけるね。

-最近の新譜はかけないんですか?

ノーって言ったらどうなんだい? 普段はかけるけど、日本に来てオレがプレイするときは、50 Cent(50セント)とかかけてもあんまりウケが良くないんだよね(笑)。みんなGang Starr(ギャング・スター)やA Tribe Called Quest(ア・トライブ・コールド・クエスト)かけると「イエー!」ってなるだろ?

-若い世代は新譜が好きなんですけどね(笑)。やっぱりある程度長くHip Hopを聴いているファンにとっては、90年代中期あたりの曲はとにかくパワフルですから。あのパワーはどこから生まれてたんでしょうか?

それはわかんないけどさ、俺が最初にレコードを出した89年から92年とかの90年代初期から、そうだな、99年まではHip Hopにしろそれに関係するものなんにせよ、みんながほかと違うことをやらなきゃいけなかったとは思うね。NYではKRS-ONE(KRS・ワン)、Erick B. & Rakim(エリックB&ラキム)、Kool G. Rap(クールGラップ)、Big Daddy Kane(ビッグ・ダディ・ケイン)、Native Tongue(ネイティブ・タン)とかがいたし、Public Enemy(パブリック・エネミー)もだな。誰もが何かほかと違うことをやらなきゃ認めてもらえなかったんだ。ウエストコーストでもIce-T(アイス・T)、King Tee(キング・ティー)、N.W.A.とかね。Harvey Luv Bug(ハービィ・ラヴ・バグ)、Kid’n Play(キドゥン・プレイ)、Antoinette(アントワネット)、Salt ‘n’ Pepa(ソルト・ン・ペパ)、みんな違うだろ?  “game”に参加したければ、dopeなことをやらなきゃいけない、そういうプレッシャーがあったんだよ。売れてるやつを真似したりするだけじゃあHip Hopは下降線になっていくだろうけど、最近はdirty south4がウケてるだろ? あれも今までとは違うから受けてるんだと思うし、それでいいんじゃないかな。

-確かにそうですね。一方でNYのHip Hopにまた期待しているファンも多いと思うのですが? 面白い人は出てきてませんか?

新しいプロデューサーのこと? 昔から活動してるプロデューサーのこと?

-いままでと「違う」音を作っている人ですね。

うーん……、難しいね。Buckwild(バックワイルド)5はNas、the Game(ザ・ゲーム)とかにもビートを作り続けてるね。あとはHeatmakerz(ヒートメイカーズ)6とかはいいかもな。あとはNYじゃないけどやっぱり9th Wonder(ナインス・ワンダー)7

-9th Wonderは90年代のスタイルに近い音を作っていると思うんですが…

イエー、ソウルフルだし、ファンクだ。

-具体的には彼のどこが新しいと思いますか?

彼は彼自身のスタイルで、独創性をもって曲を作っているよ。いま曲を作ろうとしてるやつはみんなレコードもたくさん持ってるし、機材もいろいろ便利だろ? でもそれをどう使いこなすかが大事なんだよ。

-なるほどー。話は変わりますが、D.I.T.C.としての活動の予定はなにかありますか? アルバム制作を開始したといううわさも聞いたのですが……。

これからO.C.、Diamond D(ダイアモンドD)、A.G.と4人でUK/ヨーロッパツアーに行くよ。8ヶ所回る予定だ。それをやってどうなるか、様子を見てみようと思ってるんだ。この4人がそろうっていうのが、スケジュール的にかなり難しいんだけど、今回は珍しく集まれるから、なにかマジックがおきるんじゃないかと期待してるんだ。……アルバムもやりたいとは思ってるんだけどね、“Next Level”にいけないならやる意味はないし。それにリリースすればツアーを回らなきゃいけなかったり、やっぱりここでもスケジュールの問題が出てきたり。レコードを作ること自体はできるけど、それに付随してくるいろいろなことがね……。それぞれのプロダクションやラップのスキルもキャリアを積んでいろいろな方向に向かっているから、気持ちを一緒にまとめていければいいんだけどね。

-あなた個人での活動予定は?

いまはDJすることが多いね。ラップをする前はDJをしてきてたけど、あんまりそのことが知られてなかったりするから、改めてね。それに”Funky Technician”8のリミックス・プロジェクトをやってるのと、2006年にオレのキャリアをまとめたドキュメンタリーを出すんだ。そのサウンドトラックを作ってるよ。いままでいろんな映像を貯めてきてるし、そういうものをたくさん入れてくよ。

(初出:Dextra 2005年 ※一部表記や注釈を変更しております)

  1. このインタビューは2005年11月に行ったもの。
  2. 2004年から2009年まで渋谷にあったクラブ
  3. Jay-Z & Alicia Keys – “Empire State of Mind”などでグラミーを6回受賞しているエンジニア
  4. ニューオーリンズ、アトランタ、ヒューストンなどを米南部を中心としたアーティストたちによるスタイル
  5. Lord Finesseらのアーティスト集団D.I.T.C.の一員であるベテランプロデューサー
  6. Cam’ron(キャムロン)、the Dipset(ディップセット)などで知られるプロデューサー・チーム
  7. ラップ・グループLittle Brotherで活躍した後、様々な方面でリリースを続けているプロデューサー。
  8. 1990年リリースのデビュー・アルバム