An interview with DJ Premier (2007)

interview & transcribe: Omizu, Jiro date: Jan. 2007

-サウンドチェックを終えて、shibuyaNUTS1のサウンドの感想はいかがですか?

Real Hip Hopな音だったね。大きくて、クリアで、とても強い。とても好きだったよ。Jamaicaでやるサウンドクラッシュのためのドープなシステムを思い出したよ。

-こんな感じのクラブはNYCでいえば、どんなクラブがありますか?

NYでは、昔のMarsってクラブみたいだね。おれがNYで最初にプレイしてたクラブなんだけど、でかくて太い鎖とイカリがあったよ。売れる前にJay-Z(ジェイ・Z)なんかもよく来てたし、Big Jaz(ビッグ・ジャズ)、 Jam Master Jay (ジャム・マスター・ジェイ)
もきてた。Jungle Brothers(ジャングル・ブラザース)が“Straight Outta Jungle”をやったり、Onyx(オニックス)が“Throw Ya Gunz in the Air”を初めて演ったクラブで、とても似た雰囲気だったよ。Q-tip(Q-ティップ)なんかが毎週来てた。とてもHip Hopだったよ、閉店しちゃったけどね。

-今日はアナログ・レコードでプレイするんですよね?

そうさ、Therato2はナシだ(笑)。

-ああいうシステムをどう思いますか?

Theratoにはいい面もあれば悪い面もある。本物のDJにはいいものだと思うし、偽物のDJにはナンセンスになってしまうと思う。本当のDJなら「この曲はなんだ?」と思ったらレコードを1枚1枚掘って自分の音楽を探してかけるものだ。でもインチキDJは曲を聴いて次の週にはその曲をダウンロードして来てかけてしまう。本当の技術はないのに、ヤバいDJみたいに見えてしまう。だから、ああいうものを使うのは1人前のDJじゃなきゃいけないと思うよ、俺とか、Jazzy Jeff(ジャジー・ジェフ)、DJ Revolution(レボリューション)、DJ Cash Money(キャッシュマネー)、Dummy(DJダミー)とかね。新しくDJを始めるなら、俺たちが集めてきたレコードをまず買い集めるところから始めるべきだよ。いきなりTheratoを使ったら5,000曲だって持っていけるけど、レコード箱にどのレコードをつめていくか選ぶってことがまず大事なんだ。オレたちみたいなスキルのあるDJにはTheratoのテクノロジーはいいと思うよ。俺たちはスクラッチもできるし、これまでにやってきたプレイの幅をさらに広げることができるものだからね。曲名とアーティスト名がわかればダウンロードできる、そんなことじゃあ本当にいいものはできない。

-ということは、レコードはいまでも掘ってますか?

いつも、さ。終わりはないよ。Buckwild(バックワイルド)とかD.I.T.C.(Diggin’ in the Crates / ディギン・イン・ザ・クレイツ)のメンバーとは今も一緒に出かけるよ。Showbiz(ショウビズ)とか、Large Pro(ラージ・プロフェッサー)、Kenny Dope(ケニー・ドープ)、Jazzy Jeff、DJ Riz(DJリズ)なんかと一緒にディグしに行くんだよ。誰とでもってわけじゃない、間違いないメンツだけだぜ(笑)。

-90年代にいろいろなサンプリングが使われて傑作が生まれました。そういうサンプリング・ネタというのは使い尽くされたと思ったりはしませんか?

いや、そんなことはないよ。これまでに使った曲だってまだまだ違う使い方ができるんだ。だから今でもレコードを探しに行ってるし、もう持ってるレコードだってまだ欲しいと思っちゃうんだ。Snoop Dogg(スヌープ・ドッグ)の“Doggy Style”なんか、アナログ・レコード2枚組みのセットを4組持ってるけど、もう一つ欲しいと思ってるんだ。だってもしかするともうなくなっちゃうかもしれないだろ? さっきもDazz Band(ダズ・バンド)の“Let it Whip”を12インチで買ったんだ、プロモ盤を持ってるだけだったからね。そういうものさ。

-ではそういうたくさんの音楽から、この部分をループしようというアイディアはどこから浮かんでくるんですか?

とにかく何度も繰り返し聴く。それからたくさん試しまくるね。でも、まずはドラムから始めるけど。Jazzy Jeffはハイハットから始めるっていうけど、おれはキックとスネアから始める。こういうパターンをやってみよう……いや、違う。じゃあこれは?……違うな。ってどんどん試してみるんだよ。

-では、そういうサウンドの完成形が頭の中に浮かぶというより、いろいろ試してみた中から選ぶという感じなんでしょうか?

いや先に頭に浮かぶんだ、イメージに合いそうな音を「あのレコードにあったかな?」とかって探していくんだよ。

-ではそのイメージに最も近づけたと思う曲はなんですか?

あー、“You Know My Steez”だな。ビートは自分の頭に描いたとおりのサウンドになったし、それにGuru(グールー)がキメてくれたからな。そういう意味では一番好きな曲だよ。

-2006年ではChristina Aguirela(クリスティーナ・アギレラ)のプロデュース3が意外でもあり、同時にとても素晴らしい作品でした。あの作品はどういう過程を経て作られたんですか?

やることは同じだよ。スクラッチとかビートをゼロから作って、彼女が「これは好き」って言ったものを進めていったんだ。実際、彼女が「ここにスクラッチを入れて、ここをこうして」とかなんでも注文してきたんだ。彼女は自分の欲しいものがはっきりわかってたから、オレはそれに合わせて作っていったんだよ。彼女があまりディレクションしなかったのは“Thank You”って曲だけだね。あれはアクシデントでできあがったんだ。オレの友達が娘を連れてきててね、その子にスクラッチさせてみたんだ。どうやってブレイクビーツを作るかを教えて、それにオレがキーボードを弾いてた。それを実はエンジニアがレコーディングしてたってわけ。そこで録ったアイディアを元に曲を作ろうとしていたらクリスティーナがやってきて、彼女も気に入ってそのままレコーディングすることになったんだ。

-R&BとHip Hopを作る上で切り替えていることはありますか?

同じだ、アーティスト次第だよ。アーティストとどれだけ絡めるかってことだよね。

-時間もないようですので、最後に。(オープン前の段階で)既にあなたのプレイを聴こうとファンが行列を作ってましたが、彼らにメッセージをいただけますか?

注意して音楽を聴いててくれ、2007年、ダサいHip Hopにはキツい年にしてやるからな。

(初出:Dextra 2007年 ※一部表記や注釈を変更しております)

dj_premier-Marnie_Joycephoto by Marnie Joyce CC BY 2.0

  1. 2004年から2008年まで渋谷にあったクラブ
  2. ターンテーブルでデジタル音源を操る、PC DJなどと呼ばれるシステム。
  3. アルバム“Back to Basic”中の5曲を担当