Teslaのバッテリー発表にみる、価格戦略で世界を変える方法

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いやはや、驚きましたね。

日本でもかなり報道されていますが、USの高級電気自動車メーカーTeslaが、家庭用の蓄電池をこれまでの1/3から半額以下という価格帯で発表、その生産のためのパテントまで無料公開しました。さらに社長自らがブログ

「テスラは今後、善良な信念のもとに我々の技術を利用するのであれば、誰のことも特許侵害で訴えることはしない。

Tesla will not initiate patent lawsuits against anyone who, in good faith, wants to use our technology.」

という、過去の企業活動からはあまり例がない発言まで飛び出しています。特許、知財を巡る状況の変化についてはWIREDの記事(en)などが面白いのでそちらを見てもらえればと思いますが、Teslaの話に戻りましょう。

彼らが発表したのは「安く電池を売る」ということですが、これがなぜスゴいのかというと、蓄電池の爆発的な普及を促す可能性を秘めているからです。元々、電力インフラが電力会社中心に成り立ってきたのは、発電した電気を貯めておけないから。最近では携帯電話や電気自動車の発達と需要のお陰で投資が進み、電池の持ちも良くなってきましたが、ずっと長い間、電力を貯めてもそれと同じ電力は保持できずにロスがでるということが当たり前でした。だからこそ、山を超えて谷を渡り国中に送電線網が張り巡らされてきたわけです。

しかし、もし今回の蓄電池が家にあったら?

2009年度の日本の一家庭が使う1日の電力量は約9.4kWhでした。今回発表された電池は10kWhモデルと7kWhモデル。複数設置可能ということなので、よほどの家庭でも2つ買えば十分なのではないでしょうか? これに自前の太陽光発電を組み合わせれば、本当に電力会社の送電線から解放されるのも夢ではないわけです。それが見えてくれば、買う人が増え、買う人が増えればさらに値段が下がるというのはこれまで何度も繰り返されてきました。コモディティ化という横文字を使いたがる人が多いですが、価格がこなれてみんなが買えるようになるということですね。

そうなると、電力会社の位置付けそのものが変わります。原発にバカみたいな税金を注ぎ込んだりする必要もなくなるし、さらに石油を巡って混乱を招く国際政治のゴタゴタも様相が変わりかねない。そんな夢みたいな話が、電池が普及することで可能になるかもしれないんです。

そしてこの発表をしたのはやはりアメリカ企業でした。実際の生産はパナソニックが関わっているそうですが、では、なぜパナソニック自身がこういった商品を開発し販売できなかったのか。そこに、現在の日本がパッとしない理由が隠れているのは間違いないでしょう。元からある技術を洗練させ、普及価格帯にしてみせることで世界を変える、ブランドを構築し、シェアを握る。ここ10年のAppleが大成功している手法ですよね。

また、この発表の影響で改めてバッテリー関連の企業が注目を集めているそうです。大規模商業施設向けのバッテリー開発をしているCODA Energyや、高速充電のNucleus Scientificなどの発表・報道を連日のように目にするようになりました。それだけTeslaの発表はインパクトが強かったのでしょう、いかに安くするか=広く普及させるか、という視点だけでも本当に衝撃を与えられるのだな、と実感しています。

もちろん、安くすると一口で言ってもそれがどこまでの品質でどう実現されるのかはまだまだこれからです。ですが、現実に何が僕らの役に立つのか、生活を変えることができるのか。そういうところを考え抜くこと、そういう人たちに投資することこそが、いま絶対に必要なことだと見せつけられた状況でしょう。通貨安の上に年金資金まで投入された株高に浮かれている場合ではないですよね。もっともっと頭をやわらかくしなくちゃ。