(フェアトレードの話1から続く)
さて、Fair Tradeを名乗っているからといってその企業を信用できるわけではない、という話を書いたわけですが、だからといってFair Tradeに意味がないわけではありません。まずなによりも、「ある企業・ブランドが信頼に足るかどうか消費者が判断して商品を選ぶことができる」ということを明確に示してくれる意味は計り知れないものがあります。
Coca Cola製品を買うなかれ/Nestlé製品を買うなかれ
突然ですがミュージックビデオを1本ご紹介します。日本語字幕入りなので、ちょっとこちらを見つつ読んでみてください。
端的に言えば「世間でどう言われるかに関係なく、自分で物事を判断しろよ」と訴え続けている曲なわけですが、この中に「Coca Cola製品を買うなかれ/Nestlé製品を買うなかれ」と出てきます。なぜか。調べると分かりますが、コカコーラは「女性の骨粗しょう症を引き起こす」「インドで生産されているペプシ/コカコーラ製品には基準値以上の農薬が検出されている」「コカコーラ社の生産工場が水を大量に消費するために周辺の井戸が枯渇」「独占禁止法関連での訴訟多数」などなど突っ込みどころ満載です。一方、キットカットやネスプレッソでおなじみのNestléは乳児向けの加工乳に化学薬品を添加、健康を害すると告発されたことをきっかけに70年代からボイコット運動が行われています(その後「母乳には栄養が足りない」と思わせるマーケティング手法に論点が変わっています)。どちらも世界的な大企業で有ることは共通しており、前回書いた「規模の経済で零細生産者を圧迫する」存在でもあるわけです。
どうでしょうか? 安くておいしいから、便利だからといって、こういった会社の製品を大量に購入・消費し続けていいと思いますか? 大半の人はこんな問題に目を向けることもなかったんじゃないでしょうか? 企業は利益を追求するものです。ということは、規模の大小や意図するしないに関係なく、悪影響を及ぼすことがあるわけです。その商品を買うということは、その「悪」を自分も支持することになる。そんなのいやじゃないですか?
そんな状況のなかで、Fair Tradeは大企業の大量仕入れと大量生産による「より安くて便利な製品」の問題点を明確に可視化してくれました。この商品は生産される過程できちんと対価が支払われているのか? これを買うことで誰かを不幸にする商売に加担してはいないか? 買う側が気持よく買い物をするためにも重要な要素です。そして、それだけでは終わらないのがすごいところ。
1人でも多くの人が「この商品ってまともなやり方で作られてるのかな?」と気にして買い物をするようになれば、企業もそれを気にせざるを得なくなる、というのが重要なんです。
ボイコット運動などを受けて、当然ながら食品メーカーも次々と「自社の商品は悪ではない」というアピールを開始してきたわけですが、最近では市民団体などが定期的に各社の倫理性について調査を行うなど、ちょっと気をつければ情報が入手できるようになってきました。例えば、OxFamによって2013年に立ち上げられた“Behind the Brands”は、各メーカーの資本関係まで可視化しようとしている1点で話題になりました。加えて、10大食品企業グループを毎年ランク付けし、競争させることで企業が良い方向に向かうよう圧力をかけるという意図が非常に面白い試みです。
「エシカル(ethical)」という言葉、聴いたことないですか?
「エシカル」、個人的にはカタカナで書くとすごく変な気がするんですが、日本語では「倫理的」と訳される言葉です。女性誌などでは既におなじみなはずで、食品だけでなくファッション分野でも浸透しつつあるように見えるこの言葉、Fair Tradeのような労働搾取関連だけでなく、公害や気候変動への影響など、総合的に「人を不幸にしていないか」「自然を破壊していないか」といった視点で「正しい商品かどうか」を示す概念として、新たな意味を持つようになりました。
食品以外の分野に広げて見ても、実に多くの企業がこの「ethicalであること」を重視しだしています。IT系で有名な例で言えばGoogleで、企業として「悪いことはしない」ということをわざわざ社是に書いているという珍しい会社です。家具メーカーのIKEAはトルコでの織物産業で児童労働が発覚した際、自社の生産チェーンをすべてチェックして公表し、その後も児童労働をなくすためUNICEFやSave the Childrenなどへの支援を続けています。またアパレル・ブランドのStella McCartneyは毛皮を使うことは動物虐待であるという考え方にならって、わざわざ偽物の毛皮を使っていることをアピール2しています。
企業にとって、ethicalなイメージを守ることは年々その重要さを増してきているんです。
自分で調べて自分で判断することが大事
自分個人としても、Fair Tradeを切り口に「商品を買う」ということの意味が大きく変わったのですが、ここで先ほどのミュージックビデオに戻りましょう。Scroobius PipというこのラッパーはCoca Cola社とNestlé社を挙げていました。しかしOxFamの“Behind the Brands”の2015年ランキング3ではそれぞれ3位、2位を獲得しており、ハーゲンダッツでおなじみGeneral MillsやTwiningsを擁するAssociated British Foods plcよりも「良い企業」であると評価されています。
Scroobius Pipが「自分で考えて判断しろ」と言っている通り、誰かに共感して信頼したとしても、その言葉をただそのまま受け入れてはまずいことがわかりますよね。自分で意識し、前向きに調べて判断する。そうすることで世界を変える手助けができる。そう考えただけで買い物がより楽しくなる。なんて素敵!
え……めんどくさいって?
うーん、そこが問題なんですよね。政治の話にも共通することですが、なにからなにまで正しく生きようなんて、どだい人間には無理な話ですから。だからこそ、より多くの人が興味をもち、自分で判断することを当たり前にしていく、常識にしていくことで進むしかない。前回、Fair Trade商品の売上額がアメリカで前年比6倍という数字を挙げましたが、日本でも22%増だったそうです。この数字を知って、少しずつでも続けていけば世の中は変わる。そう感じたからこそ、この記事も書いてみました。
買い物中、もしこのロゴを目にしたら、ちょっと高くても優先順位を上げてみてください。お金を払うのがちょっと気持ちよくなるかもしれませんよ。