[再々追記] Apple Musicは音楽家の敵? Warp、Ninja Tuneなどインディ大手が未契約

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Appleが発表し世界的注目を集めている、音楽ストリーミング+定額サブスクリプション1、Apple Musicに早くも悪いニュースが流れています。

「Apple Musicの一般利用者が無料で試せる最初の3ヶ月、著作権料に類する支払いは一切発生しない2」というものです。

この一報を読んでの自分の反応はこんな感じ。

で、内心は「ケチくせえ!」というものでした。(笑)

Appleの言い分はこうでしょう。
「でかいマーケットを抱えてる俺たちが君たちの曲を紹介される機会を増やしてあげるんだ、僕らもお金にならないんだから、無料で当然だろ?」

一方でレーベルやアーティストからすると、
「iPhoneやiPadでおもいっきり儲けていて、その自社のサービスを拡大するのに俺達の曲を利用するってのに、一銭も払わないとはどういう了見だ」と。

※あまり外してはいないと思いますが、それぞれ相当の意訳であることは予めご了解ください。

特にAppleへの反発を隠さないのがインディ・レーベルです。Warp、Ninja Tune、XL Recordings、Matador、Rough Tragdeなどなど英欧はインディレーベルの人気がとても高く、僕ら「洋楽ファン」(笑)も数多くの作品にお金を払っております。特に売れたのはAdeleやRadioheadあたりでしょうか。Appleは現在も個別のレーベルと契約交渉を進めているそうですが、「3ヶ月の無料期間は(著者注:当然ながら音楽ソフトの「購買」を停滞させて)中小レーベルの資金繰りを悪化させるブラックホールだ」と表現されています。カナダのインディレーベル団体からは「これはAppleからのいじめのようなもので、Appleだけを利し、毎日のように苦労して音楽を創りあげようとしている音楽家やレーベルには何の利益もない」とまで言い切っています。

個人的にも特にUKレーベルの活発さ、世界各国から面白い音楽を集めてきては流行を作り出す(そしてアメリカがそれをマスに流通させて腐らせる)という存在感には尊敬の念がわきあがることしきりですので、彼らの勢いが弱まるようなことになっては困るわけです。

ここで考えたいのは、では実際にこの契約を結んだとして、有料期間になったらどの程度のお金が入ってくるのか、ということでしょう。具体的な金額は不明ですが、普通に考えれば大きな広告予算を使って知名度も高い人気アーティストの曲がより多く聴かれるのはファンが多い分、当然なので、メジャーレーベルに所属している一部のトップアーティストに利益が集中しがちな様子が想像できます。

その問題を解決する努力を続けているのがPandora3で、個々人の好きな音楽のタイプごとにこれも好きなはず、あれも好きなはず、と、おすすめしていくというタイプのアルゴリズムを根っからの音楽好きたちが集まって作り上げている音楽ストリーミング、それもラジオに近いサービスです。これもいいですよねー、音楽と技術、双方への愛を感じます。ただし、OperaやFirefoxなど人気ブラウザの開発に関わったことで有名なWerner Hansenさんは(個々人に合わせたニュース記事を)アルゴリズムが自動的に選び出すという手法について“bullshit”4とおっしゃっており、グノシーだのスマートニュースだのを使われている方にはぜひご感想を聴いてみたい、……って派手に脱線してしまったな。

結局、この報道をめぐる限りではAppleが音楽を世界といっしょに楽しむというよりも、その下地になる音楽家たちを苦労させて利益を絞り上げよう、という意図を持っているように見えます。もし彼らが音楽を一緒に盛り上げようというなら、弱小なうちにこそサポートが必要なことくらい理解しているはずです。豊かな文化を生み出すのは特定の“サラブレッド”ではなく、多様性と様々なドラマを経て生み出された人間のドラマ、才能だったりするのですから。

さて、秋に「ロンチ5」される、 Apple Musicは音楽家の敵? 、はたまたファンの敵ともなるのか。あなたはこのサービス、使いますか?

今後も色々と情報は出てくるはずなのでフォローし続けますが、本当は今日はライブやマーチャンダイズについて書きたかったのでした。
それはまた今度。

追記:

06.17.2015
4AD、Young Turks、XL、ROUGH TRADEなど有力レーベルばかりを抱える英インディグループの雄、Beggarsが正式にApple Musicとの契約条件がレーベル運営に問題をもたらしかねないという発表をしました。

06.18.2015
英バンド・メンバーが明らかにしたところによると、Apple Musicは今回問題になっている「無料お試し期間の著作権料を支払わない」契約について、これを受け入れないグループやレーベルの音源をiTunes Storeから引き下げる、と述べたそうです。ちなみにこれを報じたConsequence of SoundsがAppleに問い合わせたところ、公式回答としてこれを否定。アーティストはiTunes Storeでの音楽販売とサブスクリプション(月額制ストリーミング)を個別に契約でき、「サブスクリプションへの参加不参加が他に影響することはない」ということです。

これはどちらを信じていいのやら、というところですが、これらのニュースの流れから方針を変更した可能性もあるわけで……個人的にはますます期待感がしぼむ一方です、Apple Music。

ちなみに、Appleからレコード会社への支払いはiTunes Storeとほぼ同様に71.5〜73%とのこと。ということはレコード会社って一体いくらとってるのか? その取り分はファンから見ても納得できるものなのか。気になりますね。

06.22.2015
Spotifyからの楽曲引き下げで話題を呼んだTaylor Swiftが、Apple Musicにもアルバム“1989”を提供しないことを発表しました。

以下、自分のtwに書いた要約

「私のためではく」「初めて曲を出すアーティストや、成功を約束されていない若いソングライターのため」

「これは甘やかされた子供のわがままじゃない。Appleが大好きなせいで公に発言できずにいる私の周りのアーティスト、ソングライター、プロデューサーの気持ち」

「3ヶ月のトライアルが無料期間だとしても、Appleがアーティストらに払うだけのお金を持っていることはみんな知っている」

「3ヶ月は長すぎるし、誰かに無償で働けと言うのはフェアじゃない」

「タダでIPhoneをちょうだいと言ってるわけじゃない。だから私達の音楽を無償提供しろなんて言わないで」

“To Apple, Love Taylor”

06.22.2015 2:00

AppleのEddie Cue氏(Senior Vice President, Internet Software and Services)が下記のツイート。
一転して無料期間にも権利者への支払いを行うと方針の転換を発表しました。

Taylor Swiftを始めとした「成功したアーティストの力」を見せつけられたのも印象深いですが、Appleという規模の企業にしてこの意思決定の速さにも驚かされました。

さて、これで後は各レコード会社・権利者団体がどれだけミュージシャンに還元するのか、ということに焦点が移ってきますね。こっちのほうが実は大事なんだし……。

  1. ネット経由で好きな音楽を聴くことができる定額サービス
  2. Music Business Worldwide[英語]
  3. 英語サイト、日本ではサービス非提供
  4. The Instagram of News Is Here, And It’s Way Smarter Than You Think – Co.Design [英語]
  5. nybctさんのtwより