「 IT革命 」を嗤え – 国内音楽サービスへの疑問

revolution?
そういえば「 IT革命 」ってありましたよね。
もう既にこの言葉ってまじめな文脈で読んだり聞いたりしたら爆笑しちゃいますよね、泣けてくるくらい。僕だけですかね?(笑)

英語で言うところのInformation Revolutionはいまも現在進行形で進み続けてますけど、日本では絶望的です。SpotifyやAir BnBやUberのようなサービスは日本からは生まれていません。

2013年には東京大学の研究者によるロボットベンチャーがGoogleに買われて政府は大慌てみたいなことがあったり、日本の「 IT革命 」の失敗例は枚挙にいとまがない。音楽でも、Walkmanを展開していたSonyこそが、iPodに始まったネットでの音楽購入などのエコシステムを展開できたはずなのに、日本の類似サービスは鳴かず飛ばずに終わったものばかりです。某リスとか某◯i◯iなんちゃらとかMusic Unlimitedとか死屍累々。

なぜか。

いろんな要因はありますが、1番大きいのは「IT化」というものをただ単に「いままであったものをデジタル化する」ことだと思っているからでしょう。

日本語wikipediaには

情報革命(じょうほうかくめい、英: Information revolution)とは、情報技術の発展によって、社会や生活が変革することである

とありますが、

英語版ではこうなる。

The term information revolution (sometimes called also the “informational revolution”) describes current economic, social and technological trends beyond the Industrial Revolution.

ずいぶん違いますよね? 特に最後。“the Industrial Revolution”ってあれね、「産業革命」。

産業革命に比される「社会の構造的な革命」ということなんですよ。

単に「書類を電子化してペーパーレス化して、あー置き場所が要らなくなってスッキリ!」ということではなくて、「そこでデータ化できたものを使って、新しい価値を生み出す」ことが重要なわけです。

例えばAppleのiTunes Storeは、CDという音楽販売メディアに引導を渡しました。CDを買ってきて出し入れしたりせず、iPodでもMacでもPCでも曲を選べば(Genius機能を使えば選ばなくても)音楽が聴ける。Walkmanが音楽を聴くという行為を「個人化した」ものだとすれば、iTunesは音楽ソフトを「物理的に所有する必要をなくした」し、Spotifyなどはさらに「選択して購入する必要をなくした」わけです。すべて、それぞれの意義付け、次元1が変わっている。掃除機の音がいくらか静かになったとか吸引力があがったとか、そういう“カイゼン”でばかり勝負している昨今の日本と違い、iRobotは「自動的に掃除してくれるロボット」を実用化したし、Air BnBは「使い途のなかった空き部屋」と「安く旅をしたい/現地の人と接したい旅人」をつなげたし、Uberは「移動したい人」と「移動する車に空きスペースのある人」をつなげたわけです2

前述のロボット技術を開発したSCHAFTの加藤 崇さんはこう言っています。

……「マーケットでの競合他社は?」

そんな通り一遍の質問に僕は、こう答えました。

「そんなものはありません。ヒト型ロボットの分野では、日本が世界の先頭を走っているんです。アメリカのマーケットを見てもしょうがない。自分たちがどうやって初期の市場を形成できるか考えるべきです」

しかし、相手はポカンとしている。

なぜ、このような反応が返ってくるかといえば、日本のベンチャーキャピタルのほとんどは、アメリカやヨーロッパでうまくいったビジネスモデルが、どのようにすれば日本でコピーできるかばかりを考えてきたからです。日本は一億人以上の成熟した消費者がいる、世界でも有数のマーケットです。その上、言語の障壁があるから、外国からは参入しにくい。すると、アメリカのモノマネでも日本だけで鎖国的なマーケットを作ることができ、巨額の先行投資をしなくても、コピー代だけ払えば、そこそこのリターンが得られてしまう。だから、日本のベンチャーで成功したと言われている企業や新興市場に上場した企業は、モノマネベンチャーのオンパレードなのです。リスクを取って、巨額の先行投資をし、自分の腕一本で新しい産業や市場をこじ開けてやろう、という気概に満ちたベンチャーキャピタリストなど、日本では皆無だと思います。
- 「イノベーションの最前線 東大発ベンチャー・シャフト元CFO激白世界一の国産ロボットはなぜグーグルに買われたのか」

では、最近日本でSpotifyの真似として始まったAWAやLINE MUSICには新しい要素はあるんでしょうか?
自分は見つけていませんし、そういう価値が生まれる可能性も望み薄だと感じています。

日本国内では一定のシェアを確保するかもしれませんが、世界に広まることはないでしょう。まして、SpotifyやApple Musicのようにミュージシャンへの利益再配分がかなり疑わしいという状況に加え、日本の音楽サービスの変化を邪魔してきた既得権者のみなさんがいまだにがんばっていらっしゃる以上、音楽家とファンを一緒に幸せにして、新しい音をたくさん響かせてもらうようなものには、残念ながらなりようがないのではないか。

そもそも、アーティストを世間に紹介する役割を果たしてきたレコード会社や、「…人々にとってかけがえのない音楽文化の普及・発展に尽くしてまいります」と宣言していらっしゃる某著作権等管理団体は、音楽家と、彼らの作品、それを楽しむ人たちをつなげ、助ける役目を果たすのが本分でした。でも、いまは残念ながら違う方向を向いた活動3ばかりが目立つように思います。

本当に「 IT革命 」が日本の音楽の世界で起きるとしたら、そういった過去の「中抜き」を飛ばして、より身近に、ファンとミュージシャンをつなげてくれるサービスになるでしょうし、そうなって初めて、世界中にそれが広がることになると思います。

テキスト・メッセージにスタンプ/ステッカーを加えることで新しいニュアンスの表現に成功したLINEのような面白いサービス、出てこないかな。

いち音楽ファンとして、楽しみにしているんですが。

  1. 参考:「チームラボ猪子寿之、インターネット時代の知性を語る」
  2. それぞれの詳細は死ぬほど解説記事があると思うので検索してみてください。
  3. 「合法的に店で音楽を流せる」 USENとレコチョクがiPad向けに店舗用BGM配信アプリ「OTORAKU」を提供